斬れる鋏の条件。

植木屋の鋏はホントに切れます。
親指くらいの枝なんか楽勝なんです。
実際、5時近くの夕方。松の剪定中に枯れ枝と間違えて自分の親指を切り落としてしまった人がいる。
という話を聞いたことがあります(笑)
まぁ嘘か真かはさておき、そんな話が実しやかに噂されるくらい切れると思ってください。
最近、ふとした手違いで市販の鋏を使って仕事をしました。
よくホームセンターの園芸コーナーで売ってるやつです。
大量生産とはいえ、最近の技術で造られたものだから、もしかしたら逆に使いやすいかもよ?
とか思いながら購入。
いざ手にしてみると、意外と馴染む。
しかも意外と切れる。
こりゃいい!
と、思っていたのは最初だけ。
使っているうちに、刃がこぼれ、かみ合わせは悪くなり、あっと言う間に切れなくなった。
まぁ安物買ってしまったので仕方ないとは思ったが、やはり職人仕事にはついてこられないようです。
マメに手入れをしている植木ならもう少しはもつのだろうが。
試しに研いではみたものの、やはり刃こぼれ。
勤め時代、まだぶち出しの鋏をもてなかった頃のことを思い出した。
現場が早めに上がり、時間があったのでナマクラの鋏を研ぎだした。
ぴかぴかに鋭く光る鋏を満足げに眺め、
「こりゃ切れるな。あぶねぇ」
とかふざけながら言っていると、後ろから社長が来て、
「本当に斬れる鋏ってのは、研がなくても斬れるものの事を言うんだ」
と、怒られた。
社長曰く、
研いで切れるのは当たり前。
盆暮れ正月しか休みの無い職人が毎日鋏は研いでられない。
一度研げば刃こぼれせず、長持ちするのが良い鋏だ。
と言っていた。
美容師さんなんかのも切れるのだろうが、植木屋のそれは強さが必要だ。
今持っている鋏は、鍛冶屋に頼んでぶち出した自分の手に馴染むもの。
見た目はかなり華奢。
そして小ぶり。
しかしこれには理由があって、華奢であるのは物が鋼なので軽くするために。
そして小ぶりなのは松の剪定をするときに、手に収めて古っ葉をもみ落とすために。
それでいて、刃はめったにこぼれない。
流石オーダーメイド。
値段が張るのは当たり前。
 
市販の鋏を使ってみて、改めてぶち出しの切れ味を再確認しました。
これが職人の仕事なんだなぁと思った。
手間隙と思いいれと、熟練の技が光る。
使い慣れない鋏では、手にマメができてしまった。
自分の手にもあわせてくれる。
なんと心強い相棒を、腰に携えているのだろうかと思った日。
 
みなさんの相棒はどうですか?
道具は日に7回拝むもんだと教わりました。
大切にしてください。
 
日々精進。
 
かずあき