難儀な商売。

kazuaki772006-06-22

今日まで手入れでお世話になったお宅。
そこの主人はとても植木が好きで自分で松の緑かき*1をやってしまう。
仕事は引退、奥さんは他界しているので植木に割く時間が多い。
その主人と話すのはとても面白い。
一度、松喰い虫にお気に入りの松をヤラれてからは虫や病気に敏感だ。
春先、自分でやった緑かきの後が白くなっているのを見て、
 
主人「何だか先が白くなっているんだけど、これ病気かなぁ?」
 
などと心配していたくらいだ。
春先にこれでもかと水を蓄えた松は傷口ができると松ヤニで塞ぐ。
画像の手についているのも松ヤニだが、これはホコリなどで黒くなっているだけで通常透明。
そして固まると白くなる。
説明すると安心した顔で、
 
主人「植木は口がきけないからなんとも心配だ。」
 
と言う。
そして松だけでも3本あり、総計30本以上も庭に植木があるそのお宅。
これだけあって口がきけたら五月蝿くてしょうがねぇと言うと、主人はそりゃそうだと笑いながら松の足元の草を抜いていた。
面白い現場は早く終わってしまうもので今日で上がりだった。
尤もその主人は自分で出来るものをやってしまうので、年に2回の手入れのうち1回は3本の松だけ。
掃除も終わり、一息つくと主人の親御さんであるばぁちゃんが出てきた。
 
ばぁちゃん「植木屋さん、お茶が入ったよ。」
 
このばぁちゃんもなかなか面白い。
お茶のときは必ずこのばぁちゃんと話をするのだが、今日はゲートボールの話だった。
なんでも町内の部落がいくつか集まってデカイ大会をやるんだとか。
どうせ年寄りのお茶会なんだろとバカにすると、ばぁちゃんは何を言うかと怒り出した。
聞けばゲートボールは1チーム5人で編成されるらしい。
そしてその大会は70ものチームが参加するんだそうだ。
参った。
そんなにデカイ大会だとは。
しかも握りがあるらしい。
勝てば2万円。
負けると1万円を払うんだそうだ。
結構デカイ金額だな(笑)
しかもばぁちゃんの居るチームはなかなか強いらしい。
ばぁちゃんその歳でそんなに稼いで使うトコなんかねぇだろうに、というとまたばぁちゃんは何を言うかと怒り出し、
 
ばぁちゃん「最近じゃ、お茶だって無料じゃ飲めないんだよ。」
 
と怒られた。
そりゃそうだとばぁちゃんが淹れてくれたお茶をすする。
その手を見てばぁちゃんが、
 
ばぁちゃん「あんたも難儀な仕事してるねぇ。」
 
とシミジミ言い出した。
以前、自分の手がコンプレックスだという日記を書いたが、なんとなく手を隠す。
松ヤニで真っ黒になり、松の尖った葉に手を入れるのでささくれがかなり酷かった。
まだ夏はいい。
冬はこれにあかぎれがついてくる。
それに比べりゃ楽な季節だよと言った。
好きでやってんだからしょうがねぇ。
するとばぁちゃんは、
 
ばぁちゃん「だから難儀だって言ってんだよ。」
 
と言った。
植木に限らず、庭が好きな奴ってのはいっつも泥だらけになっていつまでもそこにいる。
何でも好きでなきゃできないのは当たり前だが。
それにしたってそんなに好きでやってンだからもう少し楽に商売できてもいいんじゃないかという。
大変で、痛い思いをしながらしかできないンじゃ大変だと。
それでも好きでやってンだから、難儀だって言ってんだそうだ。
そこの主人、まぁばぁちゃんにしてみれば息子が好きでやってんのを見て、植木屋を見るンだからそう見えるんだろう。
まったく庭が好きな人ってなぁ…とブツブツいいながら奥に引っ込んでいった。
なるほどな、と納得してしまった。
伊達に長く生きてねぇな、ばぁちゃん。
まだブツブツ言いながらばぁちゃんが戻ってきた。
矢庭にお代はいくらだい、と聞いてきた。
今日もらっていいのかと言うと、当たり前だと返ってきた。
確認してくれと手渡された料金を数えると、1000円多かった。
ばぁちゃん1000円多いよと言うと、
 
ばぁちゃん「そんだけ痛い思いしてんだ。それくらいいいだろ。」
 
と、お小遣いをくれた(笑)
好きでやってる商売だからいいと断ると、またゲートボールで稼ぐからそのくらいなんともないと言う。
こりゃ参った。
付き返すのも無粋かと思い、ありがたく懐にしまった。
はしごを積み込み、ばぁちゃんご馳走様と車を出すと、なんと手を振って送り出してくれた(笑)
10年この仕事をやってるが、手を振って送り出されたのは初めてだ。
まったく面白いばぁちゃんだ。
また秋口に世話になるのが楽しみなお宅です。
 
日々精進。
 
かずあき

*1:強く出た新芽を春先に取っておく。そうすると脇の小さな芽がしっかりして次の手入れがやり易い