主観。

手入れに行った先で、よく言われるのが
「この盆栽もやってもらえますか?」
という言葉。
いつもの事ながら、「さてさて…」と僅かばかり考える。
以前、植栽のことをここで書いたときに盆栽家と植木屋では見せ方が違うという話を書いたかと思う。
一昔前のバブル全盛期あたりに盆栽(主につつじ系だったらしい)が流行した頃を全く違った分野(主に悪さ・笑)に青春をつぎ込んでいた自分は盆栽家にはなれなかったので、正確な知識とは言えないのではあるが、植木屋という職業柄、多少の知識は身につくもんだ。
と言うわけで、以下間違いもあることをご了承いただきたい。
前置きが長くなったが、盆栽はその幹の太さを強調するために、枝振りの良し悪しに関係無く幹が一番見えるところを正面とするのに対し、植木屋はその逆というもの。
これは見解の違いといったところであると思う。
盆栽はそのコンパクトさを見せるという大きなポイントがある。
その場所にどれ程長い時間、いや年月居たかということである。
それを一目のうちに見せるのはやはり「幹」であると思う。
記憶をその幹に刻み、そして脈々と流れる時間の経過を太さで表現する。
盆栽の価値には高価な鉢も含まれるだとか云々は置いといて、まぁ大雑把ではあるが、これが何故「幹」を見せるかという盆栽の在り方だと思う。
植木はあくまで「庭」というものの一部であり、それ1本で表現するに至らず全体で表現するものである。
もっと大きく言えば「庭」ですら実は一部であったりもするのだが、それはまた別の話。
つまりはその植物に対する「見つめ方」が違うのだと思う。
表があれば必ず裏があり、どこから見ても良い格好の植木もあれば盆栽もあるだろうし、その物はかわりない。
以上のことから「盆栽家」に対して「造園家」と表現するのが正解なのかと。
以前の稚拙な日記を読んで思ったということ。
しかしながら、本日言いたいのはここから。
 
さてさて…、では管理はどうなのか。
手を入れるという行為そのものを考えると、今度は「植木屋」である。
これは偏見かと思うが、盆栽家の手入れは見る側の手入れであるように思う。
今まで言い切ってきたのにココからいきなり「思う」で申し訳ないが、今まで見てきた経験から。
上記したように、盆栽が「流行」になってしまっていた頃、多くの方が盆栽を持っていたそうだ。
そこはやはり生き物であるので手入れが必要。
本や市場で、そして古くから盆栽を触ってきた人と会うなどして一様に知識を手に入れる。
当時は四苦八苦しながら傍に置いたものの、今では気が向いたときにだけ手入れをする。
そんな盆栽の手入れを何気に頼まれることが多い。
これが詳しいところである。
そこで困る。
そんな方達が持っていた盆栽の多くは見た目だけにこだわって造られたものが多い。
ここの枝が寂しいからこっちに引っ張る。
ここに枝があって欲しいからこう下げる。
こうやって幹が曲がっていたほうが高価だから曲げる。
「見た目」に重きを置いた手入れであると思う。
格好つけてナンボの植木屋稼業であり造園家ではあるが、こと手入れに関して全く違う。
確かに格好をつけるために、枝も引っ張るし時には幹さえもいじることもある。
しかし植木屋の手入れというのは、人間のエゴでそこに居る植木のために行うものである。
あくまで植木が主体。
自分にとって「わびさび」の手入れとは、一枝切るたび植木に「侘び」そして共に「錆び」たいという気持ちである。
共に居るために手入れをしているんだよと。
申し訳ないがそのために枝を切らせてもらうよと。
そんな気持ちを込めていつも手入れをしている。
針金に強制された「流行」の盆栽を見るたびに「さてさて…」と思う。
なんとなくやり切れない気持ちというのもあるが、こんなことを毎回依頼人に説明している暇はなく、「盆栽家」でない人には重過ぎる。
人に合わせる手入れをするか、人に合わせてもらう手入れをするか。
自分も植木で飯を喰っているからこそ悩む。
「いつも」悩んだ挙句、「いつも」同じ手入れをする。
盆栽を持っているなら多少の知識はあるだろうと前提して、
「俺がやるのは植木屋の手入れしかできないよ。気に入るか分からないけどそれでいいかい?」
一言主に断りを入れる。
鉢に植わっている以上、庭の一部にはなりきれないかもしれないが、やはり「侘び錆び」の自分流に手を入れる。
針金は全部外し、要らない枝は見た目が多少くずれても先々を考えバッサリ落とす。
時には枝の元からも切る。
今の見た目は悪いが3年もすれば生き生きしてくるよと主に返す。
その表情も色々だ。
自分を信用してくれた人はそれから毎年預けてくるし、その逆も間々ある。
そんな人には一々に説明はしないが、本当に長けた「盆栽家」なら「植木屋」に手入れは頼まない筈。
いづれにしても本当の専門職は、道に多少の違いはあれど「植物」を一番に思っているに違いない。
職業柄、幾度か「盆栽家」に会ったことがあるが、その盆栽達を見れば腕も分かるし気持ちも通じる。
植物は口をきかないから文句を言わないが、やるならやる。
任せるなら任せるとして欲しいと思う。
大切にしてやって下さい。
と、1級技能士を取得した程度でちょっとエラそうに言ってみたり(笑)
間違い、ご意見などはコメントからお願いします。
久々に真面目な植木屋の話でした。
 
日々精進。
 
かずあき