植木屋として。

電話が鳴った。
「誰だかわかるか?」
今時、何年も同じ番号を使い携帯から連絡しているのに間の抜けた言葉だと思う。
まぁ歳を考えると詮方無い。
藪から棒で、ぶっきらぼうな声の主。
おそらく番号が表示されなくても分かったであろう電話の相手。
以前勤めていた会社の親方。社長と言うべきか。
珍しく母親の居酒屋まで来ているというので会いに行った。
仕事上、顔は合わせるもののきちんと会うのは久しぶりだった。
社長はカウンターに友人と3人で腰掛けていた。
なんでも花見の帰りなんだとかどうとか。
すでにホロ酔い。
着くなりビールを勧められる。
全く呑めないわけじゃないが、ビールは苦手だなと。
思う間もなく下戸職人の前に出てきた。
この人と話すとき、なんだか最初は落ち着かない。
寡黙な人なので話題を探すからだろう。
いつも仕事の話から始まる。
当たり前か。
乾杯をして、一頻り自分の近況を報告。
それに対しては何も言わないが、社長なりに心配してくれているのだろう。
その日の居酒屋あのべは自分の知り合いがゴロゴロしていた。
ふと会話が途切れてしまったので席を中座し、挨拶という顔出しに向かう。
座敷、奥座敷で宴会が催されているようだった。
もちろん酔っているので人前での挨拶と相成る。
知った顔ばかりなのであまり緊張しない。
ある程度回って、カウンターに戻る。
こうして此処で顔を広げさせてもらってることをありがたく思う。
その様子を見てか、社長が忙しそうだなと言ってくれた。
中座の失礼を詫びたあと、忙しいのは挨拶だけで仕事は厳しいとつい愚痴をこぼしてしまった。
社長から盗んだ折角の技術も、振るうときばかりとは限らない。
植木屋の仕事ばかり選んでいては喰ってはいけない。
駆け出しじゃ仕方ない。
時に土建屋の手伝いやら解体屋の運転手もやるしかない。
まぁそれも慣れない仕事。うまくはいかず、四苦八苦していると伝えた。
そして自分の庭である、植木屋の仕事でさえ勤めと自営では全く違う。
仕事が出来るだけじゃダメなんだと知ったこと、依頼してくれた人との付き合いかた、仕事の塩梅。
それらすべてが手探りで、親父や母親、弟、夢カノや友人達の協力がなければ今頃社長のとこに戻ってた頃だと。
すると何か思いついたかのように、寡黙な社長が語り始めた。
長くなりそうだ(笑)
 
自分が勤めていたときの話。
大小違うものの、共に苦労した現場のことやら。
当時では絶対に言わないことだったので、面食らった。
そのときの社長の心情話なんかは聞いていてナントも居心地の悪いような、そんな感じだった。
新人を雇った話。
弟子には厳しい人だが、一層に表情が険しくなり「ダメだな、アリャ」と一言。
自分も何も出来ずに雇ってもらった経緯がある上、辞めて手薄になった人材の補填の話。
なんとも耳が痛かった。
今なお勤める兄弟子の話。
今年8月に取るつもりでいる1級造園技能士の話。
色々聞かせてもらった。
そして最後の〆だと言わんばかりに造園業にまつわる世間の話。
これまた驚いた。
こんな話をするのは初めてだった。
辞めて2年。
幾らか世間が見え始めたガキにも分かるように、分かる話をしてくれた。
やはり厳しい話が中心だったが、何処と無く励ましてくれているような。
そんな不器用な話しぶりが、懐かしかった。
思えば当時の会社は若衆が3人もいた。
自分もいれて歳の近い奴等がよくも集まったもんだと思う。
辞める前の何年かはえらく仕事が楽しかった。
もちろん今でも大変だが面白い。
しかしまた、違った面白さだったような気がする。
 
分からないことだらけで苦労しっぱなしだと、そんな話をした。
そして最後に社長がそれが見えただけでも成長だと、褒めてくれた。
今までで褒めてもらったのは2回目だ。
珍しい。
御陰で今週は天気が悪い(笑)
苦いビールもその日は旨く感じた。
そしてなんとなく、安心できた日だった。
帰り際に、その気持ちを忘れるなと釘を刺して社長は先にお勘定。
嬉しい日でした。
 
改めて、日々精進。
 
かずあき

こんな話もありマスよ(笑