じぃちゃんの話 Prat1

じぃちゃんの御話。祖父です。
この人は頑固。そして変わり者。
おれが幼稚園の頃に亡くなった。
20年以上昔の話。
そのじぃちゃんの話をよく親父から聞くことがある。
そのなかでも一番好きなエピソード。
 
その日、じぃちゃんはやっとの思いで買った一張羅のスーツを着込んで出掛けていったそうな。
そしてその日の夕方。ほろ酔いで帰ってきたじぃちゃんは下着姿。
 
お婆「あれ?あなた、スーツはどうしたの?」
 
お爺「あぁ、人にやっちまった」
 
道端で、寒そうにしていた乞食にやってしまったとのこと。
やっとの思いで買ったスーツ。
しかも分割で。
そりゃおばあちゃんは怒ったそうです。
当たり前ですよ、その頃は喰うのがやっとの時代。
苦労して買った着物を只で人にやってしまうのですから。
一頻り口論があった後、「まぁ、この人ならしょうがない」と一件落着したそうな。
 
話はずっと進んでじぃちゃんの葬式。
田舎のじじぃにしては珍しくとても花輪がならんだそうな。
たくさんの人が訪れる中、たった一人何処の誰だか分からない人がいる。
しかもじぃちゃんを懐かしむように遠い目をして感慨に耽っていた。
 
親父「おいお袋、あの人誰だ?」
 
お婆「わからないんだよ」
 
親父がそんな会話をしていると、その人が近づいてきたそうだ。
 
某氏「どうもこの度は・・・」
 
親父「いえいえ、どうもご丁寧に」
 
分からないまま話が進む。
話しをしてみると何でもじぃちゃんにとても世話になったんだとか。
そして深く感謝していると。
人生が一変したと。
解せない。そんな話は聞いていない。そう思った親父は思い切って聞いてみた。
 
親父「あの、申し訳ありませんがどちらの方ですか?」
 
某氏「あはは、お聞きになってないですか」
 
親父「すみません。なにせ急な事だったもので・・・」
 
某氏「まぁ無理もありません。私は乞食です」
 
親父はきょとん。お婆はビックリ。
そう。ご想像の通り、その人はじぃちゃんからスーツをもらった人なんです。
あれから初めて人の温かさに触れたその人は、それは死に物狂いで頑張ったそうです。
いつか恩を返そうと。
気がつけば人並み以上の生活を送っていた。
仕事に忙しくしている中、じぃちゃんの訃報を聞いたのだそうだ。
氏曰く、
「もう一度会ってお礼を言いたかった」
 
あれから20余年。酔うと親父は決まってこの話をする。
聞くたびにじぃちゃんにもう一度会いたくなる。
頑固で、酒呑みで、喧嘩っ早くて、変わり者。
人情に溢れ、何もなかった時代だからこそ何かを残そうとしていた人。
そんな粋な人間に、そしてそんな粋な生き方をしてみたいものです。
 
かずあき